暮らしの中の塗装

座談会「暮らしの中の塗装」参加者(2005.2~2005.5の記録)

酒井 Sakai

当サイト管理者。長野県内で工房酒杢を営み注文家具製作に携る。

上田 Ueda

長野県工業技術総合センター情報技術部門人間生活科学チームに属す。木質材料・木製品の加工・製造・評価技術・木質材料の活用技術・塗装技術などを担当。

Tani    谷進一郎 木の仕事LinkIcon

長野県小諸市にて木工家具を製作。

山口 Yamaguchi   アトリエ彩・暮・楽LinkIcon

九州気候対応型自然塗料の開発・販売を行う。

上野 Ueno   CRAPOLinkIcon

長野県安曇野にてオリジナルデザイン家具工房クラポを主宰する。

藤澤 Fujisawa    オーダー仏壇の藤澤LinkIcon

長野県飯山市にて仏壇・厨子を製作する。また蒔絵を含む漆の塗師でもある。

対談記事

酒井
暮らしの中で塗装を施されたモノは多品種に及びます。ここでは木材に施される塗装を中心に考えていこうと思います。
さて私の場合、出来上がった製品にたいして塗装を施す事をごく自然に考えていました。 塗装の目的を意識せずに「塗装はするもんだ」と・・・あえて目的を言葉に並べるならば、素材の保護・美観・意図した感触の表現、素材や製品の用途によっては機能性の付与など目的ははあるのでしょうが、改めて考えてみると どれだけ理解しているのか曖昧な部分があります。
皆様はどうお考えでしょう?
上田
暮らしの中の塗装ということで、塗装について考えますと、木に対しては、一番良いのが塗装しないこと。
家の中では、いつも乾拭きをかけたり、糠磨きしたり、茶殻で磨いたりするのが自然でよいと思います。
垢がたまったところを乾拭きすると黒光りするのはとても風情があって、美しいと思います。で、毎日のように乾拭きする必要はありますが。(糠にも茶殻にも蝋と油脂が微量に含まれています)
外壁にキシラデコールのような木材保護塗料を塗っているのが、よく見られます。新しい家は良いのですが、半年も経てば、汚くなってきます。そこでまた塗ればよいのですが、外壁は中々塗れません。
何も塗らないで、風化して灰色になったのも、結構風情があります。
ただ、カラマツやスギのような木材ではなく、ヒノキやネズコなどを使った場合ですが。
塗装のフォーラムの最初に、塗装しない方が良いという書き出しは問題があるかも知れません。すみません。
塗装についてですが、私の所で制作した品物は必ず塗装しています。
まれに注文制作で、無塗装を希望する方がいらっしゃいましたが、その方は使い方をかなり気をつけているようで、例外といえるものです。
塗装の種類は、現在、拭き漆仕上げ、ウレタン(プレポリマー)塗装、ラッカー塗装、オイル(オスモエクストラクリアー)塗装、クルミオイル塗装の5種類を使い分けています。
拭き漆仕上げが最も多く、家具から小物まで塗装しています。
白木やウォールナットなど木地の色を生かした仕上げの場合、ウレタン塗装をしていますが、余り塗膜を感じさせないように浸透性の高いプレポリマーを使います。
桐など軟材の表面硬化や耐水性が必要な器にも使います。
引き出しの中などの汚れ止めには、ラッカーをひと塗りします。
子供イスなど幼児の使うものなどはオスモカラー、食器にはクルミオイルで仕上げる品物もあります。
注文制作の場合は、使う方の希望に添った塗装法を選びますし、創作する時には、どういう品物にするか、によって最適と思われる塗装法を選びます。
どれが最適の塗装法かは、その品物に求められる用途、機能、価値、美しさを考えて決めています。
酒井
知人の引っ越し祝いに、その知人が塗装するからと収納式ベンチを未塗装で納品した事 があるんですが、結局今になっても無塗装のまま・・・でも座面に関してはいい艶が出ています。
谷さんは5種類の塗装を使い分けているんですね。それは長い間の経験則からのカタチなんでしょうか?
塗料には、数多い種類を持つ化学塗料や古来から使われている漆や柿渋、セラック・オイル等色々あります。
私はウレタン塗装もしますしオイルも使います 邪道かもしれませんがウレタンとオイルの両方を使った仕上げを施す場合もあります。
以前、アトリエベルというブランドで国内向けオイルの開発・販売をしている鈴木氏の講習会に参加したことがありますが、その中で「本来は何も塗らないほうが良い」と言っていました。
上田さんも「木に対しては、一番良いのが塗装しないこと」と書いていますが、『木に対して』以外に『住環境に対して』といった意味があるのかな?と参加した講習会では感じ取れました。
塗料等には、ホルムアルデヒド放散等級や有機溶剤対策製品を明記した製品が一般化した昨今ですが、私はどれだけお客様に対してハッキリとした安全性を説明できるか不安な部分があります。
そもそも安全性の基準とは何なのかさえ理解していないのが現状です。
まれに安易に『天然』や『自然』をうたった情報を目にすることがあります。(私の感じるところですが・・)
漆の樹液はかぶれるし、本来オイルの成分には含まれていないホルムアルデヒドが酸化重合する際に発生すると聞きますし(具体的な放散量などは知りません)・・・
塗料とは関係ありませんがスギ花粉等人体にアレルギー反応を招くのも『天然』であり『自然』なんですよね
※ちょっと中傷めいたコメントになってしまいましたが、『天然』『自然』をうたう事を決して批判するものではありませんので・・・・
山口
私は現在、縁あって国産自然塗料の開発~販売・施工をしていますが、もともとの本業は建築塗装業です。
アトリエベルの名前が出た後でなんですが、鈴木さんと一緒に開発や啓発活動も行っています。また、佐賀で化学物質過敏症の支援団体と一緒にいろんな活動も行っていますので、その辺の内容で質問等あれば私なりにご返答させていただきたいと思います。
家具・建具等の塗装も含め建築塗装全般を親の代から行ってきましたが、8年ほど前から時代の動向を見据えて、塗装という仕事で今後生活していくために必要な道を模索してきました。
シックハウスが大きくクローズアップされ法改正されたこともあって、今は化学塗料の仕事と自然塗料がらみの仕事が半々という感じで仕事をしています。その中で感じることは、木を素材とした場合の質感や仕上げ・メンテをどう見るかで塗装の存在意義は大きく変わるのではないかということです。
塗装とは?今でこそ当たり前のように塗装工程が含まれていますが、漆や柿渋などの自然物を塗る以外の化学的な塗料で塗るという文化は外国から持ち込まれたものです。
物を守るために塗膜で保護をする、見た目の美観、加えて長持ちさせること 塗装の目的は大きく分けるとこのようなことになります。
「木の塗装」をする場合・・・・木を使う目的を消さない塗装をしていってほしいと最近つくづく思います。
特に自然塗料を求めてこられる方は木目を大切に活かすような塗装をしたいと言われる方が多いのを感じます。
ウレタンでガチガチに塗り固めてしまえば、傷もつかないし、確かに長持ちしますが、木の持つ温かみや風合いをも消してしまいます。
プラスティックの表面に木目をプリントしたものを用いたのとなんら変わりないのではないかと疑問にさえ思えてきます。
着色系の塗料についても、木部に限らずカラフルな色を求める時代ですが こと木材の着色に関しては色をつけるならせめて自然界に存在する色を用いて欲しいと思うこと、そして木にもいろいろな種類があり、外材になりますが例えばウォルナットやかりん、タモなど透明の塗装を施しただけでも浮き立ってくる独特の色味をポイントにあしらうことで着色などしなくても味のある空間の演出は可能なのではないかと感じています。
それから、最後に法改正にからむ内容ですが、自然塗料が酸化重合される時にホルムが発生するというのは確かにその通りです。
ですが、正しくは木材から発生すると言われるアセトアルデヒドであり、オイルの主原料である油そのものに含まれるものです。また、特にオイルフィニッシュ等は拭き取る作業を行いますので乾燥までに発生するホルムの量はお考えのような量にはなりません。現在、自然塗料は規制対象外であるというご説明をしています。
鈴木さんが言われる“塗らないことから考えよう”というのは、家1件どこもかしこも塗ることから考えるのではなく、一度塗らない前提に立ち返ってみると「とはいってもこういうとこは手垢がつくし・・・ここだけは塗らないわけにいかないだろう」というところが頭に浮かんでくる、天井とか手の届かないところは塗らないでもいいじゃないかと整理をすることができるという意図も含んでいます。
そして、自然物とはいえ塗料に限らず独特の臭いはあります。杉やヒノキの花粉に反応する方がいるように、杉やヒノキの加工時に出る木材の臭いやオレンジやイソパラフィンといった自然塗料に使用される溶剤の臭いにも反応される方はあります。だからこそ、必要以上に塗るなと説かれている理由がそこにあります。
また、今の法律規制対象はあくまでもホルムに関してだけのもので、シックハウスや化学物質過敏症を発症する原因というのはホルムだけではありません。
安全という言葉や効果・効能を全面に出したセールスには確かに疑問があります。
上野
現在は安曇野と呼ばれる地域の一角に拠点を構え3名で活動しています。
1991年の工房開設から7年間くらいは、店舗什器や住宅設備に絡む仕事が年間の8割を占めておりましたが、以降は、個人ユーザーからの直接注文が中心になっています。
主には、ウォールナットやチェリーを中心とした無垢の木で制作しておりますが、他の個人工房に比べたら突板合板なども積極的に使うほうかもしれません。
仕上は、全体の7割がオイルフィニッシュで、約3割がウレタン塗装です。
ウォールナットに関しては、ワトコオイルを使用します。
チェリー・ナラ・タモに関してはオスモ社のオイルを使用します。
メープルは、なるべくクリアウレタンをお奨めしています。
このようなセレクトの根拠は、純粋に仕上がりのテクスチャーの問題です。
あれこれ実験してみた結果、木材によって相応しいと思われる塗料が違うと感じたということです。
上記を「標準仕様」としていますが、ニーズに応じて「自然塗料」と称されるものを塗布する場合もあります。
最近、ネット経由での問合せが激増し、メール対応に苦労していますが、そんな中で、「安全な家具」・「安全な塗料」を探しておられる方の割合は総体の1割りくらいかと思います。
その他の方は、安全であるという理由ではなく、例えば「本物である」とか「長持ちする」とか、「陳腐ではない」とか「かっこいい」などの理由で、いわゆる工房家具の購入を考えておられるように感じます。
ちなみに、私自身も「安全」というものには無頓着な人間ですし、実際に寄せられる問い合わせ内容からしても、行政や業界が血眼になっているほどに世間は「安全」を重視しているのだろうか・・・と疑問を感じていることも事実です。
しかし、「安全な家具」(安心な家具と言うべきかもしれませんが)・「安全な塗料」を探しておられる方は、それはそれは真剣で、また深刻に受け止めておられるのだなぁということも感じています。
そういった方々に対して、どの程度まで対応できるのか、あるいは、対応すべきなのか、これはなかなか難しい問題です。
上田
塗装というのは、きれいに見せる事と、木を保護するということだと思いますが、木地を生かすとすれば蝋で磨き上げるのが、もっとも生かした表面だと思います。ただ、毎日毎日拭きあげる根性が必要になります。
・少しずぼらな人は、オイルあたりが適当かも知れません。ときどき拭き上げる程度ですみます。
・もっとずぼらな人は、ラッカーとかシェラックニスあたりが良さそうです。気をつけて使っていれば、どうにかもちます。
・全く何もしない人は、ポリウレタン樹脂塗料とか、アミノアルキッド塗料あたりが良いと思います。
要はも使う人のずぼらさで決まるものがあると思います。勿論、それぞれ質感が違いますので、何とも言えませんが。
酒井
もう少し『塗料・塗装』と『安全・安心』のお話を伺います。
山口さんが言われる法改正とは『建築基準法(国土交通省)』の事だと思いますが、その法改正に伴い塗料や建材等にはホルムアルデヒド放散等級区分表示が義務付けられました。 『F☆☆☆☆』のように☆の数によって等級を表したものですが、オイルに関しても最近になって大手塗料メーカー各社が『F☆☆☆☆』を表示した製品を販売しています。また『告示対象外』として販売している製品もあります。
木製品を製作している方の中には亜麻仁油や桐油など数種のボイル油を独自にブレンドして塗料を自作している方もいますが、そういった本来(多聞に語弊があると思います)のオイルは、公的機関で検査すると『告示対象外』になるのかな?と考えた事もあります。
そもそも『F☆☆☆☆』を取得したオイルと、本来?のオイルの違いって何なんでしょう??
木製品に限らず 食品・化粧品・印刷などあらゆる分野に塗料は使われていますが、それに併せて背景には食品衛生法(厚生省)・住宅の品質確保の促進等に関する法律(国土交通省)・学校環境衛生の基準(文部科学省)などさまざまな法規があります。住宅に造り付けする家具・木製品以外の置き家具などは規制対象外になるようですが、私も仕事をする上で そんな規制があることも頭の隅に入れとく必要があるのかなと思います。上野さんがおっしゃっているように真剣に『安心』を求めている方もいるのですから・・・
上田さん。「要はも使う人のずぼらさで決まるものがあると思います」ですか(笑・・・
以前、朝鮮王朝時代の家具を目にした時のこと・・・油が丹念に擦り込まれて独特の風合いをかもし出していました。その時代背景や生活習慣は知りませんが、生活用具に対する姿勢に『ずぼら』を感じる事はありませんでした。。。
上田
オイルでF☆☆☆☆というのは、メーカー系であるようです。
あまり詳しく調べていないので、正確かどうか分かりませんが、ホルマリン測定は、塗布後2週間で測定するそうです。ですから、ホルマリンの発生をそれより速めたり、遅らせたりすれば2週間の時の発生は抑えられます。ということが一つ。オイルの塗布量を半分にしたら、ホルマリンの発生は少なくなります。
というような方法を考えれば、F☆☆☆☆は可能になります。
建築基準法だけの問題として考えれば、現在の色々な塗料の中で、オイルあるいはオイル変性塗料以外は、恐らくホルマリンを発生しません。
接着剤も、普通の酢ビやウレタンは問題ありませんが、合板等用の接着剤はホルマリンを使うことが多いので、遊離ホルマリンが問題になります。
トルエンやキシレンが大量に入っている塗料や溶剤でも規制対象になりません。
他の法律では当然問題になりますが。
最近の合成塗料(ポリウレタン等)でも、トルエンやキシレンの含まないものになっています。
こういった塗料を使っても、基本的には問題がありません。
しかし、溶剤や希釈剤は使っていますので、シックハウス等の原因になることはあると思います。
でも、一般的な考え方ですが、現場施工の塗装は溶剤を付近に揮散させますが、工場で塗装して、1~2週間、普通の状態で置いておけば、問題がなくなるはずです。
ポリウレタンなどは塗膜が安定していますので、もっとも安全なものだと思います。
もし、ほかのことを考えないで、人体への安全性(揮発成分)だけを対象とすれば、私は、十分に硬化した(配合を間違えないで、乾燥も適切に行われれば)ポリウレタン塗装が今のところ安全だと言えると思います。但しオイル変性は除く。
漆はかぶれるという危険性もありますが、油脂を混入したり、テレピン油などが入っており、しかも硬化が遅いので、完全に安全と言えるものではないように思いますが。
山口
建築にしても家具・建具の制作にしても、今までは作品としてのデザイン性や仕上がり感へのこだわりなどものづくりや技術の追求の世界で我々は仕事をさせてもらってきたのではないかと感じています。
もちろん今もひとつの方向性としてあるわけですが、塗料に限らず素材の安全性が問われるようになってしまった原因には、顧客はもちろんですが作り手側も早くきれいに見栄えよく仕上がる材料を求めてきた結果ともいえると思います。
法改正の話になったら、文章にしてしまうことに躊躇してしまいます。果たして答えはいったいどこにあるのか。
今の基準ができたのは、現実シックハウスで苦しんでいる人たちの地道な訴えが実ったものともいえます。
ただし、現実の内容は業者の逃げ道ともとれる法律です。F☆☆☆☆の材料を使っているから、測定しても数値がでるはずもなくシックハウスになるはずがないと・・・・・
安全・安心と簡単に言ったところでホルムだけが原因ではないのが現実です。また、あの基準数値は大人に対してのもので子供はもっと低い数値で反応するようです。
木材浸透性の塗料の場合、検査方法自体その施工方法と検査方法が対応しているとは思えず問題があるように感じる今の法律ですが、現状でいくと確かに工場生産の塗装品がホルムの発生率は一番少ないことになるのではないかと思えます。
ただ、住み始めてからのメンテを考えると、じゃメンテ時も板をはいで新しい工場塗装品の板と取り替えるのか?ということになります。住みながら同じ塗料で現場塗装するなんてもってのほかです。・・・・・
役所は法改正後F☆☆☆☆でないとだめ!という体制になってしまいました。(もちろんそのような中で佐賀でも工業技術センターや訓練校などでは開発や指導において自然塗料を積極的に使って下さっています。)
佐賀市などは市長が環境省出身であったことから、先進的に公共工事のシックハウス対策に取組んできました。
しかし、類に漏れず職員が移動になったこともあり、法改正後は対応が微妙に変わったように思います。
告示対象外の製品もF☆☆☆☆と同様の扱いになると素人考えでは思えるのですが、保証があるとないの違いなのでしょうか。
その辺の打開策があればお尋ねしたく存じます。
上野
>告示対象外の製品もF☆☆☆☆と同様の扱いになると素人考えでは思えるのですが、保証があるとないの違いなのでしょうか。
これ、知りたいです。
例えば、発注者からF☆☆☆☆と指定があった場合、告示対象外の製品を使ったら、やっぱり違反なんですか?
問題ないんでしょうか?
個人のユーザーからこのような指定を受けることは稀ですが、業者はナーバスになっているので、何処にでも 「F☆☆☆☆」 これが書いてあります。
F☆☆☆☆の物を使えば そりゃ問題ないんですが、それで思うような質感が得られなかった場合 制作者としてはやはり不本意なんですよ。
誰かが家を建てるとするでしょ。その施主が僕たちの家具を見て その質感をすごく気に入ってくれて、「リビングの造作家具はクラポ製でお願いします」って工務店に頼んだとした場合、業者指定の図面がクラポに回って来るわけですが、そこには当然のようにF☆☆☆☆が書いてある。
だけど、F☆☆☆☆のオイルでは、お客さんが気に入ってくれた質感を再現できないとしたなら、どうすりゃいいんだ・・・って事になります。
過去の事例は、良く知ってる工務店からの依頼だったので造作家具ではなくて、置き家具に変更してもらって竣工してから納めたりしてましたけど、それはそれで造作家具であるかのごとくピシリと納めるには結構な手間とテクニックが必要なんですよね。
こういうケースって、どう解釈されるのでしょうか。
上田さんに限らず、ご存知の方、教えてください。
>今の法律ですが、現状でいくと確かに工場生産の塗装品がホルム
> の発生率は一番少ないことになるのではないかと思えます。
> ただ、住み始めてからのメンテを考えると、じゃメンテ時も
> 板をはいで新しい工場塗装品の板と取り替えるのか?という
>ことになります。
なるほど、このへんは建築的に見たらそうですね。
僕なんかは(たぶん上田さんも)、専ら家具に焦点を当てて考えるので、気がつきませんでした。
こういう意見をお聞きすると、鈴木さんの仰る「まず塗らない事から考えて」という言葉の意味が理解できます。
上田
塗装は、建築(動かせないもの)と家具(動かせるもの)によって違ってきます。使う用途によっても異なります。
使い手が自分でメンテナンスをするのか、業者に任せるのか、メンテナンスフリーを求めるのかによっても違います。公共施設なのか、個人用なのか、住宅に住む人のコンディションによっても違うことがあります。
もう少し付け加えれば、ものを作るときから廃棄するときまでをトータルで考える必要もあります。地球環境への負荷、トータルコスト(そのコストを誰が負担するのか)、色々な条件があります。工場で塗装するにしても、塗装する人の健康や周囲の環境にも配慮する必要があります。科学技術の発達をどう見るのか、個人の価値観、それぞれの美的感覚なども考える必要があります。というように、急に大きな話になってしまうと話が混沌としてきます。敢えて大きな話に持ち込むのは良いとは思いませんが、大きな話を考えながら、小さい話を考えていきたいと思います。
作り手の価値観(例えば塗装に対する)があるとすれば、その価値観を共有できる使い手に使ってもらうべきであり、それ以外の価値観を持っている使い手に渡るとクレームになります。作り手の価値観をアピールし、それがしっかりと伝わるような説明やマニュアルのようなものを添付する仕組みを考えていくべきであると思います。少なくとも価値観を相手に理解してもらう必要があります。逆に使い手の価値観に合わせたものを作るということが必要な場合もあります。価値観というのは観念的な表現ですが、当然、それへの科学的な裏付けが必要です。そして、それなりのノウハウも必要だと思います。
シックハウス症候群の出方というのは人によって違いますし、同じ人でもシックハウス化していくことが考えられます。どちらにしても、シックハウスになりにくい方向に進むのは当然のことです。公共施設なら、なおのことです。
国土交通省や厚生労働省、文部科学省などの役所の基準というのは、ある程度の科学的な裏付けがあるのでしょうが、色々なところの力関係によって決められてくるのでしょうから、不十分であったり、不合理であったりするところがあります。ただ、私たちにはそれを十分に理解するだけの能力もないし、データも持っていません。こういった基準をもとにして、自分なりに情報を集めて判断するしかないと思います。
告示対象外というものの扱いは、私にはよく分かりません。明らかにホルマリンを出さないものということだと思いますが、自然塗料(オイル)のようにホルマリンを出すようなものを告示対象外と考えるのは理解できません。やはり、F☆☆☆☆の評価があってしかるべきです。
ただ、オイルのように油脂の酸化過程で発生するようなものと、尿素樹脂のように遊離ホルマリンが存在するものとを同列に評価するのはいかがなものかとは思いますが…。天ぷらもできなくなります。
山口
山口です。上田さん有難うございます。
大きい話から小さい話まで、全て網羅して書いていただき感謝と感激の思いです。
これを言い出すとこれがこうなって・・・・と、考えれば考えるほど壁にあたってしまうので、言えなくなってしまいます。
今の時代の中で出せる結論は上田さんの書かれたことにつきるのではないかと思います。
シックハウスというのも、それそのものが原因ではなく、そこまでに積み重ねられてきたものが、たまたまそこで新たな暴露を受けたがために溢れてしまい発症するもので、これが原因と何かを限定するのも難しいものです。
ただ、一度溢れてしまうといろいろなものに反応するようになってしまうため、過敏症になってしまった方には塗装はしないで下さいとしか言えなくなってしまいます。
公共施設ともなるとどこに基準を定めるのか非常に難しくなってくるところだと思います。
とりあえず、シックハウスになってしまった人への対策は、個別にその人に合った対応をしていくしかなく、法改正の意図も建築に携わる人がこれからしなくてはならないことも、まずはシックハウスを発症する原因をできるだけ減らした空間づくりということになるのではと思います。
それぞれの立場で、いろいろなことを知った上で情報の共有をしていき、どの辺でおさめるのか・・・・
相手の要求の程度により臨機応変に対応するために引き出しをたくさん持っておく・・・それしかないのかもしれません。
酒井
塗装と安全との関わりは法規に則した考え方も当然ですが、それ以外の考え方もあってしかりだと思います。
さて 色々ご意見を頂きました。では、自然(自然系を含む)塗料の良さとは何なんでしょう?
塗装やメンテナンスに際し、漆はあまり気軽に手を出せない感がありますが、オイルなどは手軽さが大きな要素を占めるとも考えます。
併せて谷さんにお尋ねします。谷さんが漆を作品に多様するようになったキッカケってなんですか?
上野
> では、自然(自然系を含む)塗料の良さとは何なんでしょう?
これですが、基本的には、「化学物質過敏症の人の一部は、これのお陰で気持ち悪くならない場合もある」という事なんじゃないでしょうか。それは立派な「良さ」だと思います。
山口
確かに相手の要求に応じた仕上げをすることが、まず一番大切な視点。自然塗料という選択枝をつくっても、実際は・・・
普通のでいい、防腐剤の入っているものがいい、傷がつくからウレタンがいい・・etcと言われることも多いです。
自然系塗料のいいところ。
それはたぶん自分で手軽にメンテナンスできることが一番大きいのではないかと思います。
揮発乾燥時にホルムが発生すると言われるとそれも安易にお勧めできないんでしょうか(笑)
一時期、木材からもホルムが発生するから使用を規制しようという動きがあったようですが、その後どのような動きになっているのでしょうか?
ちょっと大げさかもしれませんが、人工的につくった化学製品の氾濫で増えたホルムの清算に、自然発生の物まで数値に入れて換算すること自体日本建築の文化と歴史に対して失礼な話ではないでしょうか。
福岡で、ドイツ製の自然塗料を使ってワークショップをやったことがありますが、大人が壁用の水性塗料を塗っている横で、子供が少し分けてもらった塗料に弁柄を混ぜて端材に塗って遊んでたり、小脇に赤ちゃんを遊ばせながら塗っているお母さんがいたりして,シンナー臭やアクリル臭のする中ではできないことだなぁと思ったものですが・・・・・・・
前に一度書いたことと重なりますが、住みながらのメンテを考えると確かに体への負担は少ないのではないかと思います。とはいえ私もオレンジ系の溶剤は苦手ですが・・・
新築以外で問題になるのは改修・改築ですが、メンテの可能性と影響が考えられるものに塗装も含みます。
新築時は、自然塗料でも現場塗装はホルムが・・・と言われるのなら塗装品という形で持ち込むのが手っ取り早いのかもしれません。
ただ、メンテとなると家具など移動可能なものはともかく、現場対応にならざるを得ません。
学校等は今ワックスが非常に問題視されています。
佐賀市では、ワックスはできるだけかけない。かける場合は自然系のワックスに切り替えるようにする。と決められたようです。
まだ、通達されたばかりで浸透には時間がかかりそうですが・・・
自然塗料をやり始めたおかげで最近意外な人と話が合い、いろんな出会いがあります。もちろん建築関係や家具やさんも多いし、個人で自分の家を塗りたいという人も来られますが、漆塗りにこだわる仏壇やさん、赤とのこを探してくれと頼みにきた桐箱やさん、自分の店の弁柄を混ぜて塀を塗るからと柿渋を注文してきた有田の窯元ご用達の絵の具やさん・・・・・
化学塗料の仕事しかしていなかったら出会いも縁もなかったであろう人達との交流が今の楽しみです。
質問の答えになっていないかもしれませんが・・・
酒井
天然塗料の良さには、経年変化を楽しむ事もあるかもしれませんね。手軽にメンテできることにつながると思いますが、風合いを楽しむ事も出来そうです。
ラッカー塗装を施された卓袱台なども茶碗の輪染みや薄い塗膜の艶が消えていく様は、それはそれで味わい深いものがありますが・・・
工房家具を製作されている方の中には化学塗料を選択肢に入れていない方もいらっしゃると思います。それぞれのスタイルがある事ですから なんとも云えませんが、実際 局所換気やスプレーガン等設備、色合わせ等を含めたテクニック、または廃液処理にかかる経費の事を考えると、化学塗料は手軽にとは云い難いものがあります。
上田
何でも話をまぜこぜにするクセがあってすみません。
自然塗料というのは、概念としては理解できますが、具体的に何を意味するのか、分からない面もあります。
恐らく、天然の油脂と、天然の樹脂と、天然の蝋と、天然の溶剤を上手に混ぜたものだということができると思います。
それらの混ぜ方や、それに加えて、少し石油製品を混ぜる方法にノウハウがあって、作られた塗料も、少しずつ性質が違います。
一般的なのは、天然の油脂(ボイル油)に少しの天然の樹脂を加え、天然の溶剤(石油溶剤を使う場合も多いようですが)で溶かしたもので、塗って、拭き取るようなオイルフィニッシュタイプのものが多いと思います。
こういった自然塗料は、
1.自然だから健康や環境にやさしそうなイメージがある。
化学塗料、合成塗料に比較して圧倒的にやさしい。
2.オイルフィニッシュは素人でもそれなりに上手にできる。
粘度が適当にあって、乾きが遅いので、いつまでも触っていられる・
3.光に対して油が濃色化してくる。
しっとりと落ち着いてくるという言い方が可能である。
4.木材に対して、機械的性質(強さや硬さ)は圧倒的に弱い。
弱いので、減ってきたら再塗装する目安になる。
全部が逆説的な言い方になっていますが、逆説的な言い方のできることが自然塗料の良さではないかと思います。
個人的には、弱いから、良いのだという感じがします。
山口さんや酒井さんのお話も、そういうようなイメージを感じましたが。
自然塗料が良いのかどうか、これは、使う人の性格にもよります。
ピカピカのものよりも、にぶい光沢の方が好きな人。
結構こまめに掃除をしたり、みがくのが好きな人。
少し古くなってきても、味があると理解してくれる人。
等々。
こういった性格手はない人に自然塗料を使うと、クレームが山積みになりますので、丁寧に説明をする必要があります。
山口
上田さん、有難うございました。そうなんですよ!と相槌を打ちながら読みました。
自然塗料をうっとおしいと感じる方の反応は、乾燥に時間がかかる手間がかかる、塗膜のもちが化学塗料に比べて落ちる、鮮やかな色がでない、材料価格・施工価格共にコストがあがる・・・・といったところでしょうか。
そういう方には、化学塗料を使うしかないですねと つい言ってしまいます。何のために自然塗料を使おうと思ったのかが、完全にどこかへ消えています。
大川の家具やさんが自然塗料仕上げをしたものも販売されていますが、大手流通に乗せて販売されるところほどクレームで戻ってくる割合が多いようです。
家具の中に紙1枚で説明書きが入っているだけで、購入される方には意図が伝わっていないため、自然塗料の性質そのものがクレーム内容として返されてくるようですね。
対面販売や注文生産で、必要とされる方が製品の性質を理解して購入される分には、逆にメンテのための塗料を家具屋さんを通じて時折受けることもありますし、自分で買いに来る方もあります。
個人的には、水を得た魚ではありませんが、自然塗料を塗布したあとの浮き立つように出てくる木目の美しさと木の持つ温かみや柔らかさを消してしまわないところがいいと思っています。
化学塗料を塗っていると、塗っている傍から虫が死んでしまいますが、そういう状況を知っているだけに自然塗料を塗ったばかりの板材の上を這っていく虫をみると何とも笑えてしまいます。
今の経済の成り立ちを支えているのは化学産業ですから、今は、塗装に限らず何の世界でも2面性を持ちながら時代は流れているのではないかと感じています。
テクノロジーを追求し、開発し続ける面と、あるべき姿に戻していこうとする面・・・・便利快適を追及する人達と、不便さの中に人間性を取り戻そうとする人たち・・・・
化学塗料でないと使えない下地や場所もありますから、最終的には住み分け、使い分けをしていくという状況で落ち着くのではないでしょうか。その線引きをどこでしていくかは生産者であり、消費者の考え方次第となるのでしょうか。
私共も自然塗料だけで食べていけるわけではありませんので、今まで通り化学塗料の仕事もしています。
せめてもの言い訳として、環境色彩の勉強を始めましたがやはりこれも鈴木さんと似たような師匠と出会ってしまい、色彩景観づくり(ひとつの建物の色がどうという域ではなく、まちを構成している全ての色と自然環境の共存のあり方を調整する)にのめりこんでいます。
結局、儲かりそうにもない選択ばかりしてしまうのはなぜなんでしょう(笑)
山口
塗っている傍から虫が死んでしまうというのは木材用着色材の防虫・防腐材を含んだ塗料でのことです。今は薬剤も多少軽減されているのかもしれませんが・・・・・どうなのでしょう???
藤澤
皆さんの自然塗料に対する意識は並々ならぬものがありますね。
以前、漆しか知らなかった私にとってとても参考になります。
最近使う塗料はお客さんの要望や耐久性・安全性・コストの面で天然オイルから科学塗料まで塗らないものはないぐらい種類が増えました。
もちろん適材適所で使い分けていますが、科学塗料に関しては種類が多すぎて、保管しておく段階でだめにしてしまうことも多くあります。そんな時はつくづく資源の無駄使いを痛感してしまいます。
普段から地球に優しい?手作業の工程が多いのになぜでしょう。(笑)
酒井
建築にからむ土台などの塗料については全然知識が無いのでわかりませんが、以前勤めていた会社でポリ合板やシナ合板などを加工中に虫がバタバタと死んでいく様は目にしています。事実組みあがった洋服ダンスの中で金具付けしていると目が痛くなりましたけど・・・・
今は虫にやさしくカビにもやさしい材料を使っています(笑)
私が木工を仕事にする以前の話ですが、子供に椅子を作ったことがあります。近所の建築現場の廃材をもらってきては休みのたびに庭先であれこれと作ったんですが、それなりのカタチになったら満足して塗装はしないでいたんです。子供も大きくなりその椅子に座る事が無くなってからは庭先で鉢植えの台として使っていました。数年前、某展示会に遊び半分で雨ざらしになったその椅子を参考出品したら「同じようなものを」と、製作依頼されたときにはびっくりしました。さすがに雨ざらしによる経年変化は時間が掛かるので未塗装品を納品して後は先様にお任せしたんですけど・・・
「木に対しては、一番良いのが塗装しないこと。」とありましたが、ひとつのテクスチャーとして塗装しないのも有りなのではないでしょうか?
参加されている皆さんが、塗装に対して色々考えていて感心して見ています。
さて酒井さんから、何故、漆を多く使うようになったか、問いかけがありましたが、私が制作始めた当初は民芸家具風のラッカー塗装しか知りませんでした。アセン、重クロム酸、ステイン、シーラー、それにラッカーで仕上げる方法です。それからイメージチェンジで、北欧風に白木で仕上げるのに、チークオイルを使うようになりました。
その頃、京都で黒田辰秋の作った鍵善の飾棚や進々堂のテーブルを見て、デザインも勿論ですが、仕上げの拭き漆の色や肌にも惹かれました。そこで、知り合った人に拭き漆を頼んでやってもらいました。
その頃はまだたまにやってもらっただけでしたが、しばらく年月が過ぎて、以前に作って納めたものと再会した時に、同じように年月が過ぎたラッカー塗装やオイル仕上げしたものに比べて、拭き漆で仕上げたものは良くなっていると思いました。
元々、松本民芸家具の池田三四郎の蒐集したモノなどを見て感化されていましたが、使い込まれた木のモノの存在感を最上のモノと思っていますから、拭き漆の良さを改めて実感した訳です。私は日本や朝鮮のモノを参考に作ることが多かったのですから、拭き漆が良く合ったと思っています。
それと、今は消費税がありますが、その頃は、物品税という一種の贅沢税がありまして、家具でもある価格以上の品物は税金を払わなければならなかったのです。私もある価格以上の家具を色々作っていましたが、請求もされませんでしたし、自分から払ったこともありませんでした。
その当時、同業者で査察を受けて正直に説明したところ、過去に遡って大金を追徴されて、とても困った人もいたようです。しかし、何故か、伝統産業の保護ということなのか、漆で仕上げてある家具は物品税が免除されていたのです。桐を多用した家具も同様でした。これも副次的ですが、私が拭き漆を多用した理由の一つです。
私の所にも、国税の査察官が寝込みを襲って、は大袈裟ですが、早朝突然、まだ寝ている時に調査に来て、資料を出せと迫りました。売り上げと作品写真のアルバムなどを見て質問されましたが、どれも拭き漆仕上げだと言い張り、仕事場の漆も見せて納得させ、一銭も払わずに帰した事を思い出しました。今頃白状しても時効ですが、横道にそれました。
上田さんが「漆は適当に強くないことが良さの秘訣ではないか」と書かれていますが、このことは昔上田さんと話した時にも言われて、強くないから、毎日ふき掃除をしているとそれだけで漆の表面が擦れて来て、できたてとは違う肌になってくる、艶も違ってくると思ってきました。
商品や実用性からいえば、変わらないことに価値があるようだが、使い込まれた物の良さは変わることにあると言える訳です。
出来た時が一番美しいような商品は化学塗料で仕上げればいいでしょうが、使い込むほどに良くなるものにしたければ、漆も含めた自然塗料で仕上げることになります。
しかし、北海道で出土した世界最古といわれる漆製品は約9000年前といわれるのだから、漆は弱いんだか強いんだか。。。
条件や環境によって弱くもなるし、強くもなるということでしょうか。
上田
根来塗(ねごろぬり)は、(夏目有彦氏から聞いた話ですが)最初、生漆に黒や朱を入れて重ね塗りしたもので、使っているうちに擦れて、根来仕上げになってくるということだそうです。
生漆に入れているので、丈夫でしょうが、最初はきれいではなく、使っているうちにきれいになってくるとすると、(調べていませんので、ここからは想像ですが)摺り漆も最初は生漆を適当に塗っていたのが、擦れて「摺り漆」調になったのかも知れません。
考えてみれば、呂色仕上げ(ピカピカ磨き)というのも、塗り立て漆塗りが使い込んだときのイメージかも知れません。
アンティーク仕上げという技法もあります。
わざとシミを作ったり、虫穴を開けたり、角をすり減らしたり、着色ムラをつけたりします。
ジーンズをわざわざすり減らしたり、破いたりするのも流行っています。
これは明らかに邪道ですが、否定しきれない価値観があるのではないかと思います。
こういった味は、合成化学塗料では出しにくいもので、アンティーク仕上げではラッカーとかシェラックを使います。
ジーンズも綿や麻のものが多いようで、上手に着こなせば、スタイリッシュなイメージですが、合わなければ、みすぼらしくなります。その当たりは紙一重ですが、アンティークなものも同じような感じだと思います。
根来塗りもアンティーク仕上げも少し概念的にはずれますが、使い込んだ感じを商品の最初に持ってこようとする塗装方法も、合成化学塗料では表現しにくいのかも知れません。
酒井
過去数回、拭漆(摺漆)仕上げを外注に出した事がありますが、木地に下地着色する事さえ知りませんでした。
そんな無知な私ですが、漆に関しては工芸的な価値も併せ持つと思います。
塗装とは異なるかもしれませんが、蒔絵や砂子(すなご)・箔押し・螺鈿(らでん)など漆と共に加飾された作品は、いわゆる工芸品と呼ばれるモノの中に多く存在します。
ちょっと話は違いますが、上田さんがお話された根来塗(ねごろぬり)を模造した樹脂合板で作られた座卓を目にすることがありますが、そこに工芸的な価値は感じませんでした。(工芸的価値の有無とモノに対する好き嫌いは別ですが・・・)
アンティーク仕上げについては、私なりに試しています。最初の頃は古い傷や打痕を自然に表現するのは非常に難しく、どうしても作為的に付けた傷という印象が拭えませんでした。油分を取り除いたタイヤチェーンでテーブルの天板を軽く傷つけたりとかしていたんですが、どうもしっくりしなかったんですよ。今では別の方法でテクスチャーづけをしています。
また塗装についても最初の頃は不自然なアンティーク風?になってしまいました。
自然塗料の良さという話からずれてしまいました。ごめんなさい。
さて、山口さんは『九州気候対応型自然塗料』の開発をされていますが、日本の気候風土と自然塗料との関係を考える上でまず何を考えなければならないか、お話いただけませんか?(差しさわりの無い程度で構いません)
藤澤
漆は生きているといいますが、確かに産地や採取された年の気候や季節によっても品質が違いますし呼び名も違ってきます。当然用途も違うのですが。現在のように中国産が主流になるとどこで取れたのか不明なものですと、いつどのように採取されたのかわかりません。
毎日使っていても毎日乾きが違ったり、仕上がりが違ったり、これでは困ります。
いまは昔と違い漆を加工する技術が発達しているので(何か混ぜるらしいです)
こちらの注文どおりに仕立ててくれる漆屋さんが増えました。
つまり、漆屋さんとの細かなやりとりで自分が使う地域や季節にあった漆を作ることが可能なのです。
漆は面倒だと言う反面広く使われてきているのはこんな理由があるからなのかもしれないですね
昔は自分で自分の好みに漆を加工してましたよ。ちなみに蒔絵などに使用される漆は私の場合いまだに産地と採取された時期を指定して漆屋さんから仕入れています。高価ですけど・・・。
山口
漆へのこだわり、技法的なもの・・興味深く聞かせていただきました。
ものづくりの本質や技法をつきつめていくと、やはり日本の文化や歴史と非常に直結してくるというのがまた嬉しくもあり、楽しくもありでした。
以前、建築設計見積もりで現場塗装で春慶塗り(だったと思います)を行ってくれというものがありました。
漆の現場塗りというものに様々な条件が必要なことを伝え、その条件を整えて現場で施工することが可能なのかを問うたら、見積もりの話は他の業者のところへいってしまったことがあります(笑)
実際のところ現場での対応というのはいかがなものでしょうか
いろいろな雑誌の影響で、日本古来のやり方を用いようとする設計士さんが増えてきました。漆や柿渋に留まらず、あまに油やえごま油を塗るところも多くなってきたのではないでしょうか。
その界隈の問い合わせが非常に多かった時期がありました。
漆は別格として、塗料のなかった時代に先人の知恵として用いられていた自然物の活用は、設計する側の作品としてのステータスやこだわりとは別に、住む人がその味や経年変化を良しとし、昔のようなこまめなお手入れが可能であればそれはそれでいいのではないかと個人的には思います。
また、呼吸する塗料がいいという方についても日本でそれを求めるのならこのような自然物を用いるのもひとつの選択なのではないかと思います。
私のところも鈴木さんのところも、もともとは設計指定の中でドイツ産の自然塗料を扱ってきました。施工をする中での疑問として、ドイツと日本の気候や生活様式が大きく違っていることがありました。
ドイツは乾燥地帯で日本には四季があり、梅雨があります。地域によっては台風もよく上陸します。また、ドイツは土足生活で、日本は靴を脱いであがります。
ドイツの塗料としては優れた製品であることを認めた上で、それをそのまま日本に持ち込んでも気候や生活様式に対応した製品ではないということが開発の始まりだったと聞いています。
いわゆる呼吸するといわれる塗料は塗膜をつくらないのが売りのようですが、日本の気候の場合 塗膜をつくり、湿気による木材への影響を受けにくくしていく必要があるという考えがベースになっています。
同じような考え方でいくと、北海道と九州では大きく気候条件が違ってくるわけで、外国産のメーカーがそのような細かい要望に答えるのは
まず無理だと思いますが、国産のものであれば調合の割合を変えたり、樹脂分の量を調節するなどで対応していくことができるという利点を
活かしていこうと考えています。そういったところでよろしいでしょうか。
藤澤
まさにそのとおりだと思います。
日本には四季があり季節によっては同じ地域でも湿度や温度に大きな差があります。
特に建物に関しては湿気から内部の物(食料、米など)を守る工夫が縄文の時代よりなされていることは私が言うまでもないと思います。
無塗装の木はこのことに一役買っていたことは確かだと思います。
いかに梅雨時を快適に過ごすかを考えて、育ってきたのが日本の地域文化のような気がします。このことに対応できない塗料は日本の環境にはふさわしくないのかもしれません。 以前に鉄筋コンクリートの寺院の内陣に漆を塗る仕事がありました。
梅雨時の湿気の多い時期を狙って工期を定め、仕事を始めたのはよいのですが周りの柱や壁・床が結露しているのがわかり、急遽中止したことを思い出します。
現代の建築物の中で漆塗装を施工するということは、よほどの条件がそろわないと無理のような気がします。ちなみに、その寺院は2,3年に一回畳を交換しているそうです。(カビが生えて・・・)
これは一例ですが実際は同じ地域の中でも建築物によって室内環境はだいぶ違ってくるので、そのつどその環境に対応した塗装をしていくのが今風なのかもしれないです。
酒井
水分やシンナーなどの有機溶剤が揮発してするのとは違って、温度・湿度によって硬化する漆は私にとっては「むずかしいな~」といった感じです。。。他の塗料についても同じですが・・・・
漆の採取時期は6月~11月と聞いた記憶があります。季節によっては樹液の量も違うんでしょうね?木材も産地によって癖が違うように漆もそれぞれの癖がありそうですね。
山口さんがおっしゃる日本の気候風土と自然塗料の考え方も「なるほどな~」と感じると共に参考になります。
塗装する側から考えれは作業上 季節に応じたブレンド調整も可能なのかな?なんて思えました。
上田
“木材の呼吸を妨げない”というフレーズは美しい響きですが、木を殺して使うという言い方もよく見かけます。
山口さんがおっしゃるように、湿気への対策が日本では必要だと思います。
木を殺す、木を枯らす、アクを抜く……、木材の動きを小さくすることです。
少し話はずれますが、木材を乾燥するのに、天然乾燥が良いというような神話があります。
長い間天然乾燥していれば、アクが抜けたり、半分劣化してきたりして、動きが小さくなってきますが、1年程度では効果が期待できません。
ちゃんと人工乾燥をすべきです。というようなことと同じように、木の呼吸を妨げないということも神話のような感じがします。(但し、全面的に否定している訳ではありません)
家具は組みますので、できるだけ、木材の呼吸(収縮・膨潤)を防がなければ、狂ったり、割れたりする原因になります。
日本の指物は、基本的に木を殺して使うということだと思います。
ただ、家具でも木を呼吸させることのできる組み方も考えられます。このあたりは、ノウハウになりますので、独自の仕組みが必要です。
また、最近の住宅は高気密、高断熱になってきています。もっとシビアなものになってきます。
オイルは木の呼吸を妨げないといわれていますが、少しは妨げます。厚く塗れば塗るほど、妨げていきます。
山口さんがおっしゃるように樹脂を多くすれば、もっと呼吸が妨げられます。そのあたりで呼吸を調節するのは適切な方法だと思います。
どの程度混ぜれば、どの程度呼吸しなくなるのか、木材の樹種や塗り厚(オイルフィニッシュの仕方)との関係等をそれなりに押さえておくことも独自のノウハウだと思います。
藤沢さんのお話で、用途に応じた漆を仕立ててくれるということですが、確かに、そういうことがあるようです。
中国産でも採取した場所によって乾き方が違いますし、採取時期によっても異なります。
これらを上手にブレンドしてくれるのが漆屋さんです。それは結構なことですが、ある程度の範囲内でしかできません。
冬の外でも乾くとか、湿度がなくても良いというようなものは、何が入っているのか分かりません。
劣化が速かったり、かぶれが残るような場合もあるようです。
漆屋さんのノウハウですので、細かなことは必要ありませんが、どういう成分が入っているのかについては、確認しておいた方が良いのではないかと思います。
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